監修:歯学博士・村津大地
医療法人むらつ歯科クリニック理事長。九州大学歯学部大学院卒業、福岡歯科大学医科歯科総合病院口腔外科助教任務。
歯周病に関連した疾病はありますか?
はい。
ここ数年でいっきに研究が進んでいる分野です。
歯周病から派生した病気としては脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病、癌、認知症、あと死亡率上位になっている誤嚥性肺炎などが代表的なものです。近年の研究で、身体中のいろいろな病気と歯周病が関連している可能性が指摘され始めています。
歯周病がどんなメカニズムで疾病を引き起こす?
LPSという歯周病菌の出す毒素が関係しています。
毒素が口の中の炎症を引き起こし、血管に侵入して身体中に巡ることで様々な疾病の原因になります。
歯周病菌が出すLPSという毒素は、歯茎につくと歯茎が腫れて炎症を引き起こします。そして、実はLPSの作用は歯茎だけではなく、細胞すべてに対して効くものなのです。歯周病のメカニズムでもご説明しましたが、破骨細胞という細胞にLPSが作用すれば骨を壊すようになり歯が痩せていくという現象が起こります。このように口の中だけでもいろいろな作用を起こすのがLPSなのです。
口の中だけに留まらない歯周病菌とLPS
歯周病菌とLPSは口の中で作用すると歯周病として症状が現れます。ただ、さらに怖いところは、身体中に巡ってしまうところにあります。
歯茎は腫れると血が出やすくなりますが、それは血管が壊れている状態です。ということは血液の中に歯周病菌や毒素(LPS)が入ります。一度血液に入ってしまうと、当然、血管は全身に張り巡らされているので、歯周病菌やLPSが血管を通して全身を駆け巡っていくということです。
歯周病から「脳梗塞」「心筋梗塞」が起こるメカニズム
たとえば、血管の壁にLPSが当たれば血管の壁も(歯茎の場合と同様に)炎症を起こします。それだけではなく、歯周病菌自体が血液の中に入ると血流にのって全身を巡り、血流の悪いところに菌がたまってプラークを形成することもあります。
血管の中で形成されたプラークは、ある程度大きくなったところで、血液の流れでポンッととれて血流にのって身体を巡り出します。どこに行くかと言うと心臓や脳です。
血流にのったプラークは、心臓や脳に辿り着き、血栓のもととなり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす。歯周病が脳梗塞や心筋梗塞の原因になるということはこのようなメカニズムなのです。
実際に解剖してみると口の中のプラークにちかいものが形成されて血栓のもとになっているという事例が報告されています。
歯周病から「糖尿病」が起こるメカニズム
毒素(LPS)が膵臓に巡っていくと、膵臓のなかのランゲルハンス島に異常が起こりインスリンがうまくつくられなくなることもあります。糖尿病の原因にもなり得るということです。
また、糖尿病と歯周病は”兄弟”や”従弟”の疾病と言われています。糖尿病になると糖が増えるので血糖値があがります。そして、身体の中で糖が増えると免疫力が落ちる。だから歯周病がより悪化するという流れです。
どっちかが悪くなると他方も悪化する。だから治療としては、膵臓への処置より簡単にできる歯周病の治療をする場合もあります。糖尿病の方がお口の中をきちんときれいにすると毒素が減るので糖尿病も治りやすくなるといわれています。糖度の高い食事の制限だけではなく、毒素を減らすことも大事になってきているということです。
さまざまな疾病の原因になり得る
”原因の可能性”というところでいうとさらにいろいろな疾病が出てきます。
毒素(LPS)は細胞を刺激するので、ある一部では癌化する可能性があることも否定できません。すべての内臓には血が通っているので、歯周病の菌は全身どこでもいく可能性があります。だから届かないところがない。血が通ってないところは死んでいるので。生きている部分すべてに行く可能性があり、そこで何かしらの刺激となったところが癌化する可能性も指摘されています。
脳に毒素(LPS)が巡ると、脳の中に炎症が起こり、認知症の進行を促進してしまう可能性も指摘されています。
また、死亡率上位になっている誤嚥性肺炎もシンプルに口の中の菌が肺に感染しているのが原因です。極端に言うと歯周病は万病のもとになっているかもしれないし、もしかしたらいちばん人が死んでいる原因を作っている疾病が歯周病かもしれないとさえ考えています。
今あげただけでも脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病、癌、認知症、誤嚥性肺炎。口の中の菌が原因で死亡率が高い病気が発生している可能性があるのです。まだまだ解明されていない疾病も含めて可能性を考えて、歯周病という病気の怖さを認識してもらえればと考えています。
歯周病を予防することはできますか?
できます。
とにかく時間をかけて磨くことが大事です。
「歯周病予防」でもご説明しましたが、とにかく時間をかけてしっかりと口の中の汚れを落として、歯周ポケットの奥まで空気が届く環境を作ることが大事です。歯周病菌は空気が嫌いな性質を持っているからです。
疾病のリスクを説明して来ましたが、「本当に健康でいたいのであればちゃんと歯を磨きましょう」ということが伝わればと考えています。歯磨き粉を使うとかではなく時間をかけて歯磨きを毎日することを習慣にするだけでどれだけの人が救われるかと。
また、虫歯が減っていることによって「歯磨きしなくても大丈夫」と思っている人も多いかもしれません。しかし、歯周病は歯を磨かないと確実になる病気です。嫌気性の環境はすべて人にあるので、歯周病菌は絶対にすべての人が持っているからです。歯周病と虫歯とは病気が引き起こされるメカニズムが違うので、虫歯にならないというだけで歯周病にならないと誤解しないようにしていただきたいです。
歯周病は一か所の歯で起こるわけではなく、全体的に同時に起こる場合が多いのも特徴です。虫歯は単発が多く見えている場合が多いので意識しやすいですが、実は歯周病が見えないところで進んでいる場合があるのです。とくに子どもの場合はおとなとくらべて虫歯のリスクが高いので虫歯に意識がいきがちですが、虫歯が無くても「歯茎が結構はれているね」という方もけっこういますね。
まとめ:歯周病に関連した疾病のメカニズム
■歯周病から派生した病気としては脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病、癌、認知症、死亡率上位になっている誤嚥性肺炎などが代表的なもの
■歯周病菌の出す毒素(LPS)が歯茎の炎症を通して血管に侵入して身体中に広がる
■毒素はすべての細胞に作用する
■様々な疾病の原因になり得る歯周病の恐ろしさを再認識していただきたい
■歯周ポケットの奥まで空気が届く環境を作るためには、時間をかけて歯磨きをすることが大切
■時間をかけて歯磨きをする習慣を作ることも大切
歯周病は歯を奪うだけでなく、血液を通して毒素が身体をめぐり、身体中の不調にもつながる病気。しかし、しっかりと時間をかけて歯を磨くことで予防をすることも可能な病気です。日常的に長時間歯を磨く習慣をつけていきましょう。
また、歯茎から血が出たり、違和感があるなど、早い段階で歯科での受診をおすすめします。
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